都合のいいオトコ
「マイ、上がってもええけど、今日も店の車で帰るんよな? ちょっと前に出てもうたから30分くらい待てる?」
「……いらへん」
「え、いらんって──」
「送りはいらへん」
早くこの場から立ち去りたかった。
ボーイが出してきたロッカーの鍵をすぐさま手に取って、更衣室でも着替えるのが荒々しくなってた。
「……」
──苛立ってたけど、腹を立ててるわけじゃなかった。多分、あのときの私はつらかったんやと思う。
「迎えとかあるん?」
「ない」
「ないって……。タクシー呼んだん? まだなんやったら、こっちで……」
「いらへんって」
帰りを心配してくれてたボーイを無視して、エレベーターに乗り込んだ私。
──このときの私の頭ん中は、初めて指名された日のミツルの姿でいっぱいやった。
全部、自分のせいやってわかってる。いつかはこうなるって思ってた。別に平気。元に戻っただけや。
そう考えて自分を納得させようと思ってたけど、なかなか気持ちが落ち着かんかった。
ビルから真っ直ぐ歩く、駅までの道。
そんなに道も詳しくなかったから、駅まで行って、線路に沿って歩こうと考えてた。
夜中の道はしんとしてて、自分の足音だけが響いてた。でも、途中からもうひとつ足音が重なって──
「……!」
背後から誰かが走ってきてるとわかって、振り返ろうとしたら、その前に肩を掴まれた。
誰!?
突然のことにびっくりする私は、その相手を見て、目を丸くした。
「何してん」
──追いかけてきたのは、ミツルやった。
彼は息を切らしながらも、冷静な口ぶりで声をかけてくる。