都合のいいオトコ

同じようにそっちを見ると、店のビルからお客さんらしき数人が出てきてた。

見られんようにするためか、ミツルは私の腕を掴み、大通りから離れようとする。

引っ張られてく私が、手を払いのけようとしても、その手には力が入っててビクともせえへん。

「放して」

話が中断されても、一緒におるのは気まずかった。

文句を言うてたのに、結局ついていく流れになってるのも嫌やった。

だから、すぐに離れようとしてたのに──

「もしもし? もう酒飲んでんの?」

ミツルは私の手を引きながら、誰かに電話をし始める。

「あー、ほんまけ。……や、飲んでへんならキー渡して、俺はタクで帰ろうって思っててんけど」

店におる友だちにかけてるみたいやった。

「おー、やっぱ帰るわ。……もう飲んでんやったら、車は乗ってってええ? それか代行使う?」

運転手役で来てたって話はほんまやったみたいで、ミツルは乗ってきた車をどっちで使うかで、友達と話し合ってた。

「……わかった。……おー、ごめんな」

空き地のフェンスに沿って、コンビニ方面へと歩いてた。話の内容からして、この後、ミツルが何をしようとしてるんかわかった私は、

「乗らへんで」

ミツルが電話を切ると同時に、そう告げた。

でも彼は、

「それやったらタクシー呼べ」

と、怒ってるような口ぶりで返してくる。
< 88 / 142 >

この作品をシェア

pagetop