都合のいいオトコ
車の中で、ミツルはタバコをくわえた。
すぐに運転はせんかった。
窓を少し開け、ライターで火をつけて、微かな煙を吐きながら外を見る。
その様子を静かに眺めてた。
「……あのおっさん、今日は早かったな、帰るの」
沈黙が続いてて、急に話し始めたと思ったら、ハライシさんの話。
「うん」
友だちと入れ違いで出てくるのを見かけたんやろう。
そんで、そのあと私が出てくるのも見てた。
「……なんで“誰?”とか言うたん」
聞きたいことはいっぱいあった。
でも、いちばん知りたいのはそれやった。
ミツルはすぐに答えんかった。
黙ってタバコを吸い続け、吸い終わって携帯灰皿に吸殻を捨てたら、エンジンをかける。
その間、車内はしんとしてて。
エアコンからあったかい風が吹いて、頬の緊張が緩んだとき──
「……お前」
ミツルはやっと口を開いた。
「俺のこと、元カレが戻るまでの繋ぎにするつもりやったやろ」
いつものルートで走る車。
私が教えた道順やなく、自分で見つけたという近道。
ミツルは、私が黙り込んでも、追求はしてこうへん。
電車でひと駅の距離。
いつもなら、着いてからも一緒やから、無理して話すことは無いけど。
「……ごめん」
今回は着いたら終わってしまうから、返す言葉を振り絞った。
謝るだけの私。
ミツルの口もとは、なぜか笑ってた。