都合のいいオトコ
「ま、メンクイの誰かさんとはそんなん生まれたりせんやろうけどな」
ミツルは鏡を持って、後ろを見せてくる。
マコトのことを言うてるんやってすぐにわかった。
そのあと、ミツルは店の奥の部屋からカメラを出してきて、カット練習の記録として写真を撮ろうとしてたけど──
「……メンクイって。別に、マコトの顔は好みじゃないし」
好みはまた別やってことは伝えておきたくて、話をぶり返してしまった。
カメラをかまえるミツルは「ふうん」とつぶやいて、シャッターを数回切る。そして、写真撮影を終えてから、
「じゃあ俺は?」
と聞いてきた。
鏡の横に立って、まっすぐ見つめられる私は、返す言葉に悩んだ。
髪を切らせたことで、ハードルが下がってるんかもしれん。なんでかわからんけど、今のミツルをかっこよく思ってしまう。
「……ヒゲが嫌」
目をそらすと、ミツルはやれやれというかのような態度で「そーですか」と返してくる。
彼はそのままカウンターのところまで行って、書類を触ってた。
「芸能人なら誰が好きなん?」
「オダギリジョー」
「……アイツ、ヒゲ生やしてなかった?」
「生やしてる」
「なんやねん、それ」
呆れて笑うミツル。
その表情は、もう、以前とは全然違う。今のミツルに、私を口説くって考えはないんやろなって思った。