都合のいいオトコ

「ま、メンクイの誰かさんとはそんなん生まれたりせんやろうけどな」

ミツルは鏡を持って、後ろを見せてくる。

マコトのことを言うてるんやってすぐにわかった。

そのあと、ミツルは店の奥の部屋からカメラを出してきて、カット練習の記録として写真を撮ろうとしてたけど──

「……メンクイって。別に、マコトの顔は好みじゃないし」

好みはまた別やってことは伝えておきたくて、話をぶり返してしまった。

カメラをかまえるミツルは「ふうん」とつぶやいて、シャッターを数回切る。そして、写真撮影を終えてから、

「じゃあ俺は?」

と聞いてきた。

鏡の横に立って、まっすぐ見つめられる私は、返す言葉に悩んだ。

髪を切らせたことで、ハードルが下がってるんかもしれん。なんでかわからんけど、今のミツルをかっこよく思ってしまう。

「……ヒゲが嫌」

目をそらすと、ミツルはやれやれというかのような態度で「そーですか」と返してくる。

彼はそのままカウンターのところまで行って、書類を触ってた。

「芸能人なら誰が好きなん?」

「オダギリジョー」

「……アイツ、ヒゲ生やしてなかった?」

「生やしてる」

「なんやねん、それ」

呆れて笑うミツル。

その表情は、もう、以前とは全然違う。今のミツルに、私を口説くって考えはないんやろなって思った。


< 98 / 142 >

この作品をシェア

pagetop