らくがきと恋心
「ほら」
その声とともに解放された右手。
そこにはいつかのパグの絵が。
「えっ、……かわいい」
と、素直に感想がもれてしまう。
顔を上げると、したり顔。
真っ黒な瞳に見られると、つい目を逸らしてしまう。
そんな私を見て彼は笑う。
そして続けた。
「俺、5組だから」
「え?」
「また、喋ろ」
見た目はヤンキーっぽいけど。
まちがいなく、画伯さん本人。
「………うん」
断る理由も見つからなくて、そう頷いた。
半年間、画伯さんという存在に抱いた恋心のようなもの。
でもこれからはじまるのは、きっとちがう。
生まれて初めての、ほんとの恋。
名前も知らない画伯さんと私の、机の落書きから始まったアオハル。