らくがきと恋心
週に1回だけ。
総合実習室の1番前のこの机で始まった、名前も顔も知らない相手との落書きトーク。
女の子なのか、男の子なのか。
同級生なのか、ちがうのか。
何も分からないけれど、ワクワクした。
「そろそろ見つかったー?画伯さん」
選択授業が終わり教室に戻る途中、同じクラスの環ちゃんが私の肩を叩いた。
画伯さんとは、落書きトークの相手のこと。
絵が上手だと教えたら環ちゃんがいつの間にかそう呼び始めた。
「やめてよ環ちゃん。私は見つけるつもりなんて無いの」
「まだそんな事言ってんのー?超きもいヤツかもしんないよ?」
「向こうも私のこと知らないんだから大丈夫だよ。それに、選択授業も期間限定だし」
選択授業は半年ごとに入れ替わる。
だから、そのタイミングでこの落書きトークも終わり。
誰が相手かなんて、知らない方がいいに決まってる。
「ふーん、でっ?今日は何が書いてあったの?」
環ちゃんが私にふざけて肩をぶつけながら聞いてきた。
「んー?パグ」
「はぁ?何それ」
「パ、グ!犬だよ。可愛かった」
「えー!もう絶対女子じゃーん、つまんない」
環ちゃんはあからさまにガッカリした顔をする。
「もう、環ちゃん何を期待してるの」
「そりゃ、相手が実は超イケメン男子で、そこから恋が始まる…みたいな王道展開でしょ!」
楽しそうにそんな事を言った環ちゃんを見て、アリな展開だと思ってしまったことは内緒にしておこう。
「アハハ、現実じゃありえないよね」
「うん、ありえん」
と、笑いながら話した。
次の選択授業は、また1週間後。
今度はどんなことが書いてあるんだろう。