王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて

嵐の前触れ



 ーー嵐の夜だった。海の色した瞳が私に祈るように囁く。

「ねぇ、僕に抱かれるのは見返りなのかな?」

 風がゴウゴウと吹き荒れて、一線を超える予感と共鳴する。シーツの上に打ち上げられた私は肯定も否定もせず、真っ直ぐ見つめ返した。

「……そうか、それでも君を抱くよ。貴女がこんなに欲しいんだ」

 乱暴にシャツを払うと素肌が覗く。品行方正を地で行く彼にも雄がきちんと宿り、疼く。今だけ、今だけは何もかも脱ぎ捨ててしまいたい。

 触れた唇から理性を溶かされ、熱を吹き込まれる。

「愛しているよ、奈美」

 それが泡沫の戯言であるとあると知りつつ、私は身を捧げたのだった。
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