王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて

嵐の夜に



 私は怒りに支配されていた。ひどく裏切られた気分になり、二人を問い詰めないと気が済みそうもない。

 病院に着くとまず修司を見付けた。玄関先へ土囊を積んでいた彼は私の表情を認識するなり、何を言われるか悟ったらしい。

「奈美、こっち」

 駐車場の物影へ案内しようとした。

「花梨ちゃんは? 中にいるんでしょう? 三人で話したい」

「いいから、こっちへ」

 白衣に病院から引き剥がされ、痛がって眉を下げたら「すまない」と言われる。

「それは何に対してのすまない?」

「奈美が知ったであろう全てが対象」

「なにそれ? 悪びれた様子、全然ないじゃない! ねぇ、どうしてこんな意地悪をするの? 私だけならともかく、お母さんまで巻き込んで!」

 怒鳴りながら泣けてくる。修司が慰める手付きをしかけるも拳を握って仕草を縫い留めた。

 それでいい、触れてこようものなら噛みつくところだった。

「憔悴してる奈美に面倒事を増やしたくない、そう判断した。これは独断で花梨は関わってないんだ。責めるのは俺だけにしろ」

「はぁ? 格好つけないでよ!」

 吹き抜ける風が感情に同調する。白衣がはためき、まるで事の責任をかわすよう。
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