王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 いきなり現れた手は私達の驚く様を受け、首へ移動する。申し訳ないと襟足を撫でて自己紹介をしてきた。

「楽しそうな声が聞こえて、つい。僕は晴臣。君達は?」

「あっ、この人が青い目の人だ! こんにちは、あたしは花梨よ。こっちがお兄ちゃん、あっちは奈美ちゃんね」

 混乱からいち早く抜けた花梨ちゃんが私達を説明する。
 噂には聞いていたものの、青い瞳があまりにも透き通っていて私の意識は吸い込まれてしまった。

「お前、あそこから降りてきたのか? そんな格好で?」

 修司の方は冷静な分析をする。彼はどこかの学校の制服を着て、観光客に見えない。

「そうです。足場が悪くて汚してしまいましたが」

 スラックスをつまみ、泥がはねた箇所を披露する。丁寧な話し方は大人っぽさを引き立て、花梨ちゃんの口調を引っ張った。

「どこから来たんですかぁ? 島の子じゃないよね? 遊びに来た感じじゃないから気になります」

 聞き方はかしこまっているが、質問内容がストレート。

「お前、港で奈美のおばさんと話してたな。知り合いか?」

 修司が軌道修正し、クエスチョンマークは私へ振られる。

「あぁ、あなたが奈美さんですよね? お母様にそっくりです。僕の父がお母様と交流があり、お話しました」

「お父さんが島の人だったの?」

 私の問いに青い目を細め、明確な答えを出さない。出さないというより出せないのだと子供ながらに察せられる。
 彼には言い得ぬ物悲しさが纏わりつく。
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