王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 僕は大股で距離をつめると、彼の襟元を掴んで引っ張り上げた。

「僕、あなたに遠慮していました。奈美が愛した男性ならばと」

「とかいって寝たんだろ? 婚約者が居ると知りながら手を出す奴に説教をされたくねぇな!」

「えぇ寝ましたよ、彼女が欲しくて、欲しくて堪らなかった。再会して忘れられていても構わない、うまく笑えないのなら僕が笑わせます。彼女を今すぐしがらみから解放して下さい!」

 壁へ押し付けありったけの力を込め、宣戦布告する。

「奈美を修司君といるより、いいえ誰よりも幸せにします。だから、あなたから奈美を奪いますね!」

「……は、なせよ! そんな事、俺に言われても困るんだけど」

 反らそうとする彼を引き戻す。

「僕は修司君と花梨さんとも向き合いたい」

「そんな奴が首を締め上げるか! 離せってば!」

 腕を緩めた途端、突き飛ばされた。

「俺だって、俺だって奈美を幸せにしてやりたかったよ。一生懸命、奈美が見たくないものを遠ざけてきた。それは傷付かないようにって意味だったが、たぶん誤ったやり方だったんだろうな。お前をみてたら分かる」

 額に手を当て、天井へ息を吹きかける修司君。
 ポケットへ手を突っ込み、ぼそぼそと語り始める。

「お前が親父さん連れてここに来たの、奈美に隠したのは俺。罪悪感でも構わないから奈美を島へ繋いでおきたかった」

「……そうですか」

 そうじゃないかと考えていた。奈美の自宅へメッセージを残しても折り返しはなく、胸騒ぎがした。彼女の性格上、幼馴染に確かめずにはいられなくなったのだろう。

「それからあと一つ」

「まだあるんですか?」

 うっかり言ってしまい、睨まれる。ただ再会した当初より視線が柔らかくなっている気もしないでもない。
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