王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 奈美を連れてきた時はそれはもう噛み殺されるかと。

 人の愛し方に正しいとか誤りがあるのかは正直分からない。それでも修司君なりに奈美を想っていたのは事実だ。でなければ彼こそ、島を離れたはず。

 島に留めておくには勿体ないスペックであると本人が一番分かっている。地域医療を支える使命感があるなら尚更、経験を積むべきだ。

「奈美は婚約者がいるのに他の男と関係を持ったりしねぇよ」

「は?」

「俺達はとっくに終わってる」

「……元カノが尻軽女と思われるのも癇に障るんでね、一応教えといてやるわ」

 修司君はポケットの中身を投げて、踵を返す。

「こんなにも奈美を追い込んじまったんだ。もう俺は奈美を好きでいる資格はない」

「それは違うと思います! 奈美は仲違いをしたから夜の海へ行ったんじゃない。何か他の理由があったと。後悔し続ける彼女が花梨さんと同じ行動を取るとは考え難いでしょう?」

 渡された車のキーを握る。じきに薬の効果が消え、奈美は目を覚ます。雨脚が弱まっている今のうちに帰宅しよう。

「明日、奈美をここへ連れてきます。花梨さんも集めて、皆で話し合うんだ」

「はは、そんなの奈美が嫌がるだろ」

 言いつつ、足を止めて背中で言葉を聞いている。

「気持ちがすれ違っているなら早めに解消しなければいけない。だから伺います」

「仕事はいいのか? 経済誌で表紙を飾っているの、見たぜ? 忙しいなら無理しなくていいぞ」

「そちらこそ医療雑誌で特集組まれてましたよね? 拝見しました」

「ーーあっそ、それじゃあ多忙な者同士、宜しく」

 振り向かずひらひら手を振り、修司君は一階へ降りていった。
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