王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて


 花梨ちゃんと揃って病院へ訪れると、修司は片眉を上げた。病院嫌いの妹が来る理由を直球で投げ掛ける。

「用件は何だ? 怪我か、病気か?」

「……デリカシーがない兄貴ね。そんなんだから先輩に捨てられるのよ」

「違う、俺から振ったんだ。そうだろう?」

「そうね、デリカシーが足らないという意見に同意する」

 軽口を叩く修司だが、花梨ちゃんの加減をそれとなく探っていた。

 診察室には通さず、仮眠を取る為あれこれ手を加えた部屋へ案内される。漫画やゲームソフトが充実した内装に私達は顔を見合わす。

「呆れた、これじゃ兄貴の部屋じゃん。どうりで実家に寄り付かないと思った」

「うるせぇ、このくらい構わないじゃねぇか。それより何か飲むか? お子様な花梨はコーヒー牛乳でいいな。奈美は?」

 小型の冷蔵庫を開ければ先日渡したタッパーがそのまま入っている。漫画もゲームソフトも揃えてあるだけで実際は楽しむ間もないのだろう。

「あのさ、奈美先輩はコーヒー飲めないんだってば! いい加減覚えたら? 紅茶はあるの? ミルクティーとか?」

「はぁ? ミルクティーだと? そんな小洒落たもの、あるかよ。よし、村田の爺さんが寄越した昆布茶にするか」

 靴を脱げと顎で促され、褪せた畳の上に腰を下ろす。菓子受けは住民の手作りだろうか? 年配の方が好む和菓子がこんもり盛られている。

「昆布茶……西園寺さんは美味しいミルクティーをご馳走してくれたのになぁ」

「確かにあのお茶、美味しかったね」

 同意しつつ、お茶の支度をする背中を眺めた。

「ーー西園寺?」

 シュコシュコ、ポットを押していた修司の動きが止まる。
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