王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて


「わぁ! 素敵!」

 鏡の前でくるり、一回転するとドレスの裾が軽やかに花開く。
 西園寺氏は私に碧色、花梨ちゃんには桃色のドレスを用意してくれ、装いに合った髪型とメイクが施される。

 プロのテクニックで仕立てられると自分が自分じゃないみたい。花梨ちゃんが感嘆を上げる隣で私は言葉が出てこなかった。

「先輩? どうかしました?」

「いや、なんか凄いなぁって」

 アイラインで切れ長な印象を和らげ、唇はプルンッと艷やか。

「でも先輩は元がいいし、よりメイク映えした感じかな」

 キラキラした笑顔が向けられる。良かった、昨夜はきちんと眠れたのだろう。

「花梨ちゃんも似合ってるよ。可愛い」

「ふふ、ありがとうございます! 西園寺さん、分かってますよねぇ? こういうサプライズし慣れてそう」

 その言葉にドレスの裾を摘む。

「確かに私の好きな色だ」

「マーメイドドレスっていうのも演出ですしね!」

「演出?」

 手持ち鏡で睫毛を整えつつ、花梨ちゃんは意外に冷めた意見を言う。

「足止めされて退屈しているゲストに先輩を紹介したいんですよ〜。ほらほら、客寄せパンダちゃんみたいな?」

「……えっと、花梨ちゃん? パーティーに参加したくない? 嫌なら私一人で行くから無理しないで」

 するとパチパチ瞬き、傾げてみせた。

「もう、何を言い出すんですかぁ〜! 奈美先輩一人で行かせる訳ないじゃないですか!」
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