王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
「花梨ちゃん!」
不穏な空気が一気に充満し、慌てて立ち上がる。ざわつく気配を辿り駆け寄った。
するとーー。
「私と奈美先輩に構わないで」
花梨ちゃんと濡れた西園寺氏が対峙している。私はその構図に愕然とし、ふらつく。
西園寺氏が濡れている理由は一目瞭然、グラスの中身を浴びせられたのだ。
「花梨ちゃん、あなた、なんてことを……どうして?」
震える疑問に二人が視線を寄越す。
「奈美先輩、私にはちゃんとした理由がーー」
言い訳を聞く前に私は足を進めていた。
「申し訳ありません! 本当に申し訳ありません! 奈美ちゃん、西園寺さんになんて真似をするのよ! お詫びしなさい」
悠長に事情を聞いている場合じゃない。きつく言い放ち、花梨ちゃんへ反省を促す。
しかし当の花梨ちゃんは態度を改めるどころか、そっぽを向いてしまう。
「とにかくハンカチを……すいません、すいません、西園寺さん」
パーティー主催者に無礼を働くなどあってはならない、それも相手は西園寺コーポレーションの副社長だ。何が起因なのか皆目見当もつかないが、正当性の天秤がマーメイドダイバーズをズヘ傾くことだけはないだろう。
「ハンカチ、お借りしても?」
「え、も、もちろん。私の物で宜しければお使い下さい」
「ありがとう」
西園寺氏は私から受け取るとジャケットを軽く払う。滴る前髪をそのままにするのが気になり、ついつい指摘してしまった。
「あの、お顔も濡れています」
「はは、貴女のハンカチで拭えないかな。はい、どうもありがとう」
騒ぎを聞きつけた彼の秘書がやってくる。タオルを持参しており、西園寺氏はそれで顔周りを拭う。返却されたハンカチはちっとも汚されておらず、乾いていた。
不穏な空気が一気に充満し、慌てて立ち上がる。ざわつく気配を辿り駆け寄った。
するとーー。
「私と奈美先輩に構わないで」
花梨ちゃんと濡れた西園寺氏が対峙している。私はその構図に愕然とし、ふらつく。
西園寺氏が濡れている理由は一目瞭然、グラスの中身を浴びせられたのだ。
「花梨ちゃん、あなた、なんてことを……どうして?」
震える疑問に二人が視線を寄越す。
「奈美先輩、私にはちゃんとした理由がーー」
言い訳を聞く前に私は足を進めていた。
「申し訳ありません! 本当に申し訳ありません! 奈美ちゃん、西園寺さんになんて真似をするのよ! お詫びしなさい」
悠長に事情を聞いている場合じゃない。きつく言い放ち、花梨ちゃんへ反省を促す。
しかし当の花梨ちゃんは態度を改めるどころか、そっぽを向いてしまう。
「とにかくハンカチを……すいません、すいません、西園寺さん」
パーティー主催者に無礼を働くなどあってはならない、それも相手は西園寺コーポレーションの副社長だ。何が起因なのか皆目見当もつかないが、正当性の天秤がマーメイドダイバーズをズヘ傾くことだけはないだろう。
「ハンカチ、お借りしても?」
「え、も、もちろん。私の物で宜しければお使い下さい」
「ありがとう」
西園寺氏は私から受け取るとジャケットを軽く払う。滴る前髪をそのままにするのが気になり、ついつい指摘してしまった。
「あの、お顔も濡れています」
「はは、貴女のハンカチで拭えないかな。はい、どうもありがとう」
騒ぎを聞きつけた彼の秘書がやってくる。タオルを持参しており、西園寺氏はそれで顔周りを拭う。返却されたハンカチはちっとも汚されておらず、乾いていた。