王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて

豪雨とハンカチ

 船内を探し回ること数十分、片隅でうずくまる花梨ちゃんを発見した。

「良かった、電話しても全然でてくれないんだから。心配したよ」

 私は膝に手を当てて中腰になる。豪華客船オトヒメは広大、宿泊者以外立ち入れない区画を除外しても捜索範囲を絞れない。あちこち走り回り、やっと行きあえたのだ。

「っーー先輩、ごめんなさい、私、私!」

「うん、まぁ、大変な事になっちゃったね」

 西園寺氏へ飲み物をかけるという前代未聞の行為にフォローの言葉など浮かばない。かといって正論をぶつける真似も出来ず、ひとまず近くのソファーへ移動した。

 花梨ちゃんは崩れるよう着席すると背を丸めて泣く。

 パーティー会場から離れたここは共用の休憩スペースのようだ。彼女を落ち着かせるためにも水を飲ませたいが、自動販売機等は見当たらない。

「花梨ちゃん、お水を貰ってくるから」

「もう帰りましょう! こんなところ早く帰りたい! そうだ、兄貴に迎えに来てって言って下さい」

「帰るにしろ雨がひどい、すぐにとは行かないの」

 グスグス鼻を鳴らす花梨ちゃん。小刻みに震える身体を宥めるも効果は薄く、さらにワガママが炸裂した。

「兄貴なら運転に慣れてるんで平気です! 帰りましょうよ」

「修司は病院でしょうに。仕事を放り出して迎えに来いと言うつもり?」
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