王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
「先輩、私のことをちゃんと探してくれたんですね、嬉しい!」

「当たり前じゃない、何を言ってるの?」

「奈美先輩」

 抱き着いて、甘えてくる。柔らかく巻いた毛先に身体を絡め取られる錯覚を覚え、怯え、花梨ちゃんは妹みたいな存在じゃないかと首を振った。

 水と帰りの車の手配をするにはバトラーの力を借りるしかなさそうだ。
 私達は宿泊客でないものの西園寺氏が世話役をつけてくれ、パーティーでの騒ぎを思えば協力を仰ぐのは気まずいが、そうこう言っていられない。

 花梨ちゃんが会話内容を拾えない距離まで移動し、連絡をとる。電池の残量からしてこのやりとりで私の携帯電話は使用できなくなる。充電器を借りる考えが過るも、まぁ、いいか、どうせ後は帰るだけ。

 バトラーが開口一番で私達の様子を気遣うあたり、西園寺氏または秘書より話が通っていると察する。周到な手回しに頭を下げつつ、居場所と用件を伝えた。

「帰りの手段が整わない場合、部屋を用意するーーか」

 島にタクシー会社があるにはあるが、この天候で配車をしない可能性が高い。バトラーは現段階での承知を避けて、宿泊の選択を示す。

 これも西園寺氏側のリスクヘッジか。たとえ恥をかかされた相手であろうとパーティーへ招いた以上は怪我などさせられない。西園寺コーポレーションの看板に傷がつき、前社長の勇退クルーズも台無しになる。
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