王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 電源が落ちた画面へ私が映り込む。

(これで西園寺氏ともお別れなんだな)

 合わせる顔がないのに声が聞きたいと思ってしまう。こんな浮ついた気持ち、私らしくない。ドレスを脱いでメイクを落とせば泡みたく消え去るのだろうか。

「やぁ、こんな場所で何をしているんだ?」

「あなたはーー」

 確か西園寺氏を取り囲んでいた一人で、顔がますます赤くなっている。千鳥足でこちらへ向かってきてアルコールの臭いが濃い。よろける姿勢を手助けするのを躊躇してしまった。

「あれから会場は君達の話題で持ち切りだったさ。結城さんだっけ? スキューバダイビングのインストラクターやってる?」

「えぇ、名刺をお渡ししたのですが」

「キレイな顔してるよねぇ、引退後は芸能人になろうと思わなかった?」

「……華やかな世界は私に合わなくて」

 無遠慮でプライベートへ踏み込まれ、不快だ。不快だがこれ以上、問題を起こしたくないので嫌悪を必死に飲み込む。

「で、幾らだ?」

 男性はすわった目付きで問う。

「え? あぁ、レッスン料ですか?」

「ちっ、とぼけるんじゃないよ! アンタの値段だ、幾らで寝るんだ?」

「何を仰ってるのか、私には分かり兼ねます」

 ぐいぐい詰められて後ずさりはしつつ、酔っ払いの戯言に付き合う暇はなくいので冷たく返した。しかし、それが裏目に出て男性は私を捕らえようと行動に出る。
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