王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて

あなたを探していた

 私は走り去った車を見送った姿勢のまま動かず、勢いよく水を弾く足音に振り向かない。
 繰り返すが腹立たしい訳じゃなく、こんなに濡らされているのに心が乾いてヒリヒリして滲みる。

「ーーあぁ、やっと見付けた」

 言葉と同時に背後から抱き締められた。

「西園寺さん?」

「はい、西園寺です。貴女の姿が見えなくなったと聞いて心配しましたよ。あぁ、こんな場所に居るなんて心臓が止まるかと」

「動いてるじゃないですか」

「はは、貴女を抱き締めてドキドキしているんですよ。さて、そんな意地悪どんな顔して言うのか見せて下さい」

 くるっと身体を回転させ、両頬に手を添えた。青い瞳が私をとても心配していたのだと訴えてくる。

「私、どんな顔してます?」

 他に言わなきゃならない事が沢山あるのに、こんな身形で体裁もない。

 尋ねると改めて抱き締められる。

「誰かに見付けて欲しかった顔をしてます」

「見付けて欲しかった?ーー確かにそうかもしれません。締め出されてしまって」

 場所だけじゃなく、色々な意味でとの含みを彼は読み取った。

「貴女はここに居る。一人きりで寂しかったでしょう? 僕が見付けましたよ、もう大丈夫」

 西園寺氏の言葉は温かい。胸のうちにストンッと腑に落ち、じんわり広がる。
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