王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
(何を考えるのよ、やめよう)

 背中のファスナーに手を伸ばし、素肌になると香りのする浴槽へ向かう。花びらが浮いていて映画みたい。

 考えてみれば、あの状況でよく無事で居られた。夜が明けるまで発見されなくても不思議ではなく、その場合ーー。

 身体が温まると一連の出来事を客観的に捉える事が出来る。無論、私は当事者であるので責任から逃れられないが。

 西園寺氏の誰かのピンチに颯爽と登場するヒーロー性を感じ、花梨ちゃんの発言が聞こえた。

『足止めされて退屈しているゲストに先輩を紹介したいんですよ〜。ほらほら、客寄せパンダちゃんみたいな?』

 ファン心理からの親切を疑いたくない一方、私は西園寺氏に期待するのを怖がり始める。
 こんなお姫様みたいな扱いを受けて良い気分にならない人は居ないだろう。私だって……。

 両手足が伸ばせる湯の中で膝を抱えた。

 まぶたの裏へ西園寺氏が私を見つけ出してくれた映像が鮮明に流れ、胸が苦しい。
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