王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
「病気の母親を見舞ってくれと言うのが、僕を利用している事になるのかい? ならないよ、そんなの」

 西園寺氏は間をおかず、笑い飛ばす。

「困った時はお互い様、父に話をしよう。ほら泣きそうな顔しないで? 理由はどうあれパーティーに来てくれた、僕はそれが嬉しいんだ。貴女の力になりたい」

「だってお父様とは、その」

 みなまで言わない。察しが良すぎる青い瞳は足らない言葉を補完するだけに留まらず、経緯(いきさつ)を読み取った。

「……なるほど。もしかしなくても坂口がつまらない話をしましたね? 結城さんは気にしないでいい。それより小腹が空きませんか? つまみになるような物、あったっけな」

「待って!」

 事も無げに要求を受け入れ、つまみの支度までしようとする彼を引き止める。

「西園寺さんは優し過ぎます」

「実は優しくしたら好きになってくれるかもって、下心がありますので」

「ないです、感じません」

 ひたすらに甘やかす彼を睨んだ拍子、罪悪感が目尻から溢れてしまった。

「ありますよ、下心。そうして泣いてる貴女を抱き締めたい」

「じゃあ、母の件をお父様へ交渉する代償を求めたらいいんです。私もそうして頂けると楽です」

「投げやりな発言は止めましょう? 軽食と一緒に温かい飲み物も用意しますね。結城さんはお利口に座っていて」
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