王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
「がっついてしまい、すまない。気を付けよう」

 落ち着こうとする様子に私から手を伸ばしてみる。が、暗くて掠めるだけ。

「私こそ慣れていなくてすいません。つまらないですよね?」

 情熱的なキスに応えられず腰が引け、この先も上手に出来るか不安しかない。

「まさか! 大好きな人を抱くんだから興奮し過ぎる事はあっても、つまらないなんて気持ちになるはずない!」

 額と額をぶつけ、言ってくれる。

「ベッドへ移動しよう。抱っこしてもいい?」

「いやいや、私、重いので! それに今度は靴を履いてますよ?」

「なら脱がせよう」

 私の背を壁へ押し付け、片足を上げさせた。西園寺氏の指はストッキング上を滑らかに這い、パンプスを落とす。

「こちらの足も、ね?」

 囁やくついでに息を吹き掛けてきた。真っ赤になった耳の言い訳はキスで封じられ、気付けば宙に浮いている。

「間接照明はつけてもいいかな?」

「は、はい、あまり明るくしないでくれると助かります」

「分かった」

 オレンジの光がベッドまでの道筋を照らす。お互いの唇の位置を認識し、そっと重ねつつシーツへダイブした。

「服を脱がすね?」

「あ、あの、いちいち許可を取らなくていいので。西園寺さんが好きなようにして下さい」

「ーーなら晴臣と呼んで」

「え?」

「好きにして良いって言うなら、名前で呼んでくれないかな?」

「晴臣さ、ん」

「うん。出来れば心の中でもそう呼んで欲しい」

 西園寺氏ーー晴臣さんは私の胸元へ顔を埋める。
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