王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて


「豪華客船でスイミング指導?」

 豪華客船が悪天候のあおりを受けて島に停泊するーーというニュースは全国的に報じられ、今朝オーナーから呼び出された私達はそちらの乗客の指導を言い渡された。

「依頼人の西園寺晴臣(さいおんじ はるおみ)って、あの西園寺グループの御曹司じゃないですかぁ〜!」

 花梨ちゃんがプルプル歓喜で震え、見開いた瞳を私へ突き付ける。くっきり二重にお金のマークが浮かぶ。

「奈美先輩、これは団体客のキャンセル分を取り戻す絶好のチャンスですよね? ね?」

「お、落ち着いて。どうせ足止めを食らったから暇潰しで私達を呼んだだけ」

 にしてもマーメイドダイバーズにとって商機なのは間違いない。オーナーも依頼を断る頭など微塵もなく、花梨ちゃんと同じ反応を画面越しで示す。

 幾つもの事業を抱えるオーナーは多忙で、私も花梨ちゃんも実際に会った事がない。

 そのオーナーがパソコンを通してではあるが直々に指示を出すというのは特別なルートで交渉したからと推察される。西園寺家となれば様々なコネクションがあって然るべき、造作もないだろう。

 とにかく先方に失礼がないよう念を押されに押され、通信が切れた。
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