王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
「駄目ですよ。晴臣さんはお仕事も忙しいでしょうし、ゆっくり寝て下さい」

 断られると私の手を取り、薬指へ頬を寄せた。

「約束するなら小指です」

「僕は薬指に誓いたい。貴女との未来を考えたい、駄目だろうか?」

「晴臣さん、それは」

「抱いたら抱いたで気が急いて仕方がないんだな。こんな風に言ったら貴女を困らせると分かっているんだが」

「……」

 彼の不安に対して私は何も返せなかった。すると沈黙が答えと気取る彼に組み敷かれる。

「奈美は本当に駄目な時こそ、駄目って言わないんだね」

 くくっと喉を鳴らして笑う晴臣さん。嵐が通り過ぎた窓の外へ視線を泳がそうとするも顎を持たれて叶わない。

「ーーシャワー浴びたいんだったね、行ってきていいよ」

 だが、先に反らしたのは彼の方。

「え?」

 丁度その時、ノックが響く。いち早く晴臣さんは来訪者が来るのを察知したらしい。脱ぎ散らかした服を雑に羽織り、対応にあたろうとした。

「あ、私が出ていくので」

「いや、貴女のそんな姿を見せたくない。こんな時間にやって来るのは坂口くらいだ。はぁ、何かしらのトラブルがあったんだろうな」

 ドアへ向かう途中、私の靴や服も拾うと一旦戻ってくる。それからベッド脇で跪き、こちらを見上げた。

「戻ったら今後の話はきちんとしよう。全責任は僕にある」

「私は責任を取って欲しい訳じゃ」

「承知している。もちろんお母様の見舞いの件は任せてくれ、必ず父を連れて行く」

 ーーコンコンコンッ、催促するノック。
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