王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて

急変



「ーー私を迎えにきたの?」

 下船すると黄色の車が待ち構えていた。私の姿を認識するなり修司が運転席から飛び出してくる。

「他に誰を迎えに来たって言うんだ? いいから乗れよ」

「う、うん。病院は大丈夫なの?」

「非番」

 私が出てくるのをずっと待っていてくれただろうに、彼はつっけんどんに返す。

「そっか」

「乗れ」

 おずおずと乗り込み、シートベルトを引く。修司がこちらの仕草をつぶさに観察している気がし、もたついた。

「あぁ、しばらく横に乗せてないから固くなっちまってるかもな」

 身を乗り出し私のベルトを締める際、スンッと鼻を鳴が鳴らされる。

「なんか香水つけてる?」

「え、ううん、つけてないけど?」

 指摘されたので自分でも確認するものの、よく分からない。

 カチッとはまる音がして修司が離れていく。

「悪かったな」

「え?」

「昨日は置いてきぼりにして悪かったって言ってるんだ」

 ハンドルを両手で握り締め、正面を見たまま謝罪。修司らしいといえば修司らしいが。

「本当は奈美も連れて帰りたかったが、あの雨と風じゃ長居は出来なかった。しかも花梨が泣きじゃくってて。花梨、御曹司に酒をぶっかけたんだって?」

「……花梨ちゃんから何処まで聞いた?」

 尋ねたところでエンジンがかかる。

 ラジオのニュースでは嵐が去った旨を伝え、朝六時時点での交通情報も流す。この情況ならば豪華客船は本日出発できそうだ。
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