王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて


 私の家で朝食を食べた後、修司の携帯が鳴る。

「修司、電話が鳴ってるよ」

 皿洗いを担当する彼の元へそれを持っていく。
 花梨ちゃんを含め、自宅の行き来は幼い頃からしており、互いの実家が第二の我が家感覚だ。

「お、病院からだな。なんだろ」

 手を拭きつつ、緊急の呼び出しに嫌な顔せず応答している。皿洗いは私へバトンタッチされた。

(あ、私の携帯、水没して壊れちゃったな)

 母の見舞いについて連絡があるかもしれないので早めに対処したいが、島に携帯ショップは数店しかない。

 今日中に用意できるかどうか巡らせ、ふと自分が約束を守って貰える前提で考えていると気付く。

 新たな台風が発生しているし、豪華客船は本日中に出発するはず。となれば見舞う時間を捻出するのは難しそう。相手はあの西園寺グループの前社長だ。

(いっそ病室で待っている方がいいかも)

 下手に動き回らない、甲板へ締め出された時に学ぶ。私に連絡がつかなければ、病室へ電話をするか直行する可能性が高い。

(誰が同行するのだろう)

 私が居なくとも見舞いは成立する一方、前社長は一人でふらりとやってこれない。西園寺の関係者が必ず付き添うだろう。
< 85 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop