王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 私と修司はベッドへ横たわる母を見る。医院長のご厚意で個室を割り当てて貰った。

「おう凄いだろ。敬え、敬え」

 茶化す修司にかぶりを振る。

「ーー本当に凄いってば。医院長からここで働かないかって誘われてるんでしょ? 前に話しているの聞こえちゃった」

 その際、看護師から人気があるのも。
 医院長が腕を見込む優秀な医師、そのうえ若く容姿も整っているのだから騒がれるのも納得だ。

「てか、俺がこの病院で働いたら島の連中はどうなる? まぁ、花梨とお前がついて来るなら考えるけど、どうせお前らは島から離れないし」

「花梨ちゃんはともかく、私は考慮しなくていいってば。いつも言ってるよね?」

「強がるんじゃねぇ、おばさんがまた倒れたら? 一人で対応出来るのか? それとも御曹司に頼む?」

 言いつつ、頬を掻く修司。

「あー、そうじゃない。俺はお前に頼られたいんだ」

「充分頼ってるって」

「それは医者の俺だろ? 男として頼られたいって言ってる」

 座ったまま彼を見上げ、あちらも私を窺う。

「奈美からしたら、花梨にせがまれて付き合っただけ。俺に気持ちが無いのは重々分かってるさ」

「せがまれたからって、そういう言い方はーー」

「とにかくだ、西園寺はやめておけ。あの男を好きになっても奈美は幸せになれない、傷付けられる。嫌なんだ! 俺はお前が泣かされるの、耐えられない!」
< 90 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop