王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 修司は私の正面へ移動すると視線の高さを揃えた。

「今は男として見れないって言うなら兄貴でいい。奈美、俺達もう一度やり直そう? な?」

「ねぇ、お母さんの前でこういう話はよそうか。別れる時に話し合ったよね? 恋人でなくなろうと私達は幼馴染だって」

「互いの家を行き来して、何がどこにあるのか把握もしてる。幼馴染という関係なんてとうに越え、奈美は俺の家族だ」

 よりを戻す気がないというより、修司が大切だから戻せない。
 彼は私の中に晴臣さんの存在を感じて取り上げようとする。花梨ちゃんと三人で変わらぬ暮らしをしたいが為に。それは愛でも恋でもないから。

「……携帯、震えてる」

 修司の胸ポケットを指差す。着信の振動が透けていた。

「花梨、だ」

「出て。花梨ちゃんもお母さんを心配しているはずだから」

「でも」

「出て!」

「奈美、俺はーー」

「私を大事に想ってくれているのはちゃんと伝わってる。だけど、こういう時に家族って繋がりを強調されれば、弱い私は甘えてしまう。もう嫌なの、そういう自分が」

「俺がいいって言ってる、甘えろって言ってるだろう?」

「だから、それじゃあ駄目なんだって! 私や修司、花梨ちゃんもこのままは駄目だよ」

 花梨ちゃんにせがまれて彼と交際したんじゃなく、母が倒れ寂しかったところに修司が寄り添ってくれた。それは愛なのかもしれないが、結局は男と女じゃなく家族愛だ。
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