王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて


 私達はいったん島へ帰る事にする。

 新たな台風が接近中。交通手段であるフェリーが波風の影響で運休したら身動きが取れず、入院に必要な書類や道具を揃えられないからだ。修司に至っては仕事を休めない。

「……はぁ、迂闊。ごめん、何も持ってこなかった」

 フェリーのチケット代を立て替えて貰い、乗り込む。島へ向かう定期便は一便しかなく、天気予報もあって他の乗客は見当たらない。

「準備万端でドクターヘリに乗るの、隊員くらいだ。あ、そうだ、家の施錠は花梨がやったって」

 欠伸を噛みながら言う。さすがの修司も疲労を隠せない。

「非番なのにごめん」

「人の命が掛かっていたんだぞ? そういう遠慮はやめろ」

「うん。でも、ありがとう」

「ん、どういたしまして」

 フェリーは豪華客船と比べものにならないシンプルな内装、言葉を選ばなければ殺風景だが、私はこちらの方が落ち着く。

 アーティスティックスイミングに本格的に打ち込む前は島と街を行き来していた。もしかすると床へ轢かれた緑の絨毯は当時のままかもしれないーーそう思い付き、学生時代の足跡を探してしまう。

「懐かしいか?」

 丸い窓から限られた景色を覗いていたら笑われる。

 修司は貸し切りなのをいいことに横たわり、三人掛けのスペースを占領。しかし長い手足は収まらない。だらりと垂らし天井を仰ぐ。
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