王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 花梨ちゃんの部屋は二階にある。眠り姫を刺激しないようキッチンへ向かう。

「あら、花梨起きたの? あぁ、奈美ちゃんね。眠れない?」

「喉が渇いちゃって。おばさんこそ寝付けないの?」

「嵐がくると思うと胸騒ぎがしてね。お水、用意するわ」

 手招きされ、明かりが付いた室内へ。ダイニングテーブルに日記帳が広げられていた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう。座ってもいい?」

「もちろん! あ、お菓子でも出そうか? とっておきを隠してあるのよ。修司や花梨に見つかるとすぐ食べられちゃうから」

「こんな時間に食べると太っちゃうし」

 壁掛け時計は深夜二時を刻む。

「偉い、現役を退いた後も体型維持に努めてるのね。ところでお夕飯は口にあった? 野菜中心に作ってみたんだけど」

 遠慮したのに目の前へビニール袋を置かれた。袋はパンパンに膨らんでおり、高カロリーが覗く。

 椅子を引き、中身を物色する真似はしておく。修司等に食べられると言う割り、彼らが好むものだけを選んでいそうだ。

「特にほうれん草のお浸しが美味しかったよ、作り方を教えて欲しい」

「ふふ、やっぱり親子ね。あれは奈美ちゃんのお母さんから教えて貰ったメニューなのよ」
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