孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~
「どうぞ」

彼の前にコーヒーを置く。部屋の中は下品な香水の匂いが充満していて、せっかく丁寧に淹れたコーヒーの香りがかき消されてしまいそうだった。

「あーあ。
右田も気が利かねぇなー」

いくら上役とはいえ、自分よりも年上の右田課長に対して一士本部長が悪態をつく。
お気に入りの子ではなく、さらに部内でも一番地味な私がコーヒーを持ってきてご不満なのらしい。

「こんなんだからいつまで経っても出世できねぇんだって、わかんねぇのかなぁ」

ぎりっと強く奥歯を噛みしめたせいで僅かに頭痛がした。
こんな悪口、右田課長には聞かせられない。
確かに右田課長は私が入ってきたときから六年、ずっと課長で昇進できていない。
しかし真面目で尊敬できる人だ。
けれど曲がったことが嫌いな実直な人だからこそ、一士本部長をはじめ上層部の人々にはウケがよくないのも知っていた。

「すみません、お待たせしました」

反論しようかどうしようか悩んでいたら、当人が部屋に入ってきた。
しっしと邪険に追い払うように一士本部長が私に向かって手を振る。

「……失礼いたしました」

悔しさを抱え込んだまま、部屋を出た。
一士本部長はまた、右田課長に無理難題を押しつけに来たのだろう。
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