おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される

55話 祖父が遺した六冊

 シュゼットは祖父のことを思い出す。

 物と話せることをカルロッタに知られて、気味が悪いと家族に避けられだした頃、悲しくて泣くシュゼットに祖父はこう言ってくれた。

 ――悲しい時は上を向きなさい、シュゼット。ちゃんと周りを見てさえいれば、助けてくれる手がかりに気づけるものだ――

(上……)

 何気なく天井を見上げて、息をのんだ。

 書庫の天井には、青空と天使の油絵が描かれている。
 この絵の存在には前から気づいていたが、ベール越しに見ていたときには布が邪魔で全体を見渡せなかった。

 さえぎるものなく俯瞰して気づいたのは、描かれた天使の異様さだ。
 薔薇色の頬をした愛らしい天使たちは、なぜかみんな南側の壁を見つめていた。

 そちらに何かあるのだろうか。

 南に向かって歩いていったシュゼットは、さらに奇妙なことに気がついた。
 図書室には多数の肖像画が飾られているのだが、ここの壁にだけ一枚もかけられていないのだ。

(どういうことでしょう?)

 もう一度、天井を見上げてみる。

 南の壁に一番近いのは弓を持った天使だ。
 矢で狙いすますのは、壁の中央辺りにある暖炉である。

(そういえばこの暖炉は、おじいさまが生きていた頃も一度も使われていませんでした)

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