おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
『たまにはカルロッタのお手付きじゃない物も欲しいじゃろう。わしらを売った金で新しい品を買ったっていいんじゃよ』

 同情してくれる本棚に、シュゼットはにこりと微笑みかける。
 強がりではない。笑えるのにはちゃんとした理由があった。

「新品はいりません。もうすぐ、手に入りますから」

 シュゼットは、白く細い左手を黄昏る空にかざした。
 オレンジ色の光に照らされて、薬指にはめた婚約指輪が光る。

 ――シュゼットはもうすぐ花嫁になるのだ。

 しかも相手は国王。
 この広大なフィルマン王国を治める若き君主、アンドレ・フィルマンなのである。

 結婚すれば、ジュディチェルリ家を出られる。
 息苦しい〝おさがり姫〟の身の上から抜け出せる。

 それが分かっているから、辛い仕打ちにも耐えられた。

「私、自由になります。新しい夫のもとで幸せになるんです」

 シュゼットの夢見る表情は、残念ながらベールに隠れて見えなかった。
 しかし屋根裏部屋の物たちは、彼女がこの結婚にどれだけ期待しているのかを感じ取って、その先が幸せであるように祈った。
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