おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
「ええ。私も王妃様の優しさに救われた者ですから」

 本心を隠して大人の返答をしたラウルは、空になったカップをリシャールの手から取り上げた。

「さあ、ベッドにお入りください。俺はリシャール様が眠るまでここにいますから、安心して眠ってくださいね」
「うん。ありがとう、ラウル」

 素直に布団に入って目を閉じるリシャールの頭を、ラウルは優しく撫でる。

(リシャール様は前王と同じ、黄金色の髪とオレンジ色の瞳を持っておられる)

 アンドレは銀髪と紫の瞳だ。

 瞳の色は母親である王太后ミランダと同じ。
 しかし、ミランダは豊かなブラウンの髪の持ち主だ。銀髪ではない。

(髪の色は父親の影響か?)

 フィルマン王国内で銀髪は珍しい。
 たいていが茶色か赤褐色で、次に多いのが金髪と黒髪だ。

 銀や青といった色彩を持つのは、他国との国境に近い領地に暮らす人々である。
 外国の血が混じっているために肌の色も白く、美しい容姿をした人物が多いのだ。

 リシャールがすっかり寝入ったのを見届けて、ラウルは廊下に出た。
 出てくるのを待っていたバルドに、空のカップを渡して言いつける。

「ついこの間、宮殿で銀髪の人物を見たような気がするんだが、忙しくて記憶があいまいだ。覚えていたら教えてくれ」

「それはひょっとして、レイリ伯爵ではありませんか? 先代が残した財産を整理する予定があって、宮殿までご相談にいらっしゃっていたはずです」
「レイリ……」

 その名は、六年分の宮廷録にたびたび出てきた。
 ミランダの訪問客で、多いときは半年も宮殿に滞在していた貴族だ。

「バルド、レイリ伯爵に連絡してくれ。国王補佐のラウルが三十年前のことについて詳しく聞きたがっていると――」
< 116 / 158 >

この作品をシェア

pagetop