おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
 親切な初老の紳士が名乗り出て、シュゼットを席までエスコートしてくれた。
 傷跡には気づいただろうが、直視せずにいてくれてありがたい。

 席にはすでにアンドレがいた。
 シュゼットとお揃いの宮廷服に身を包み、金の椅子にもたれている。

 見るからに面倒くさそうだ。
 集まった招待客は貴族がほとんどで、彼がいつも宮殿に呼んでいるような遊び慣れた女性はいないため、興が乗らないのだろう。

 シュゼットは、彼に一礼してから隣に腰かける。

「陛下、今日はダンスをよろしくお願いいたします。新しいお衣装、とてもよくお似合いです」
「……そう?」
「はい。さすがはフィルマン王国を治める国王陛下です」
「下手なお世辞だね」

 そっけないながら返事をしてくれるアンドレに、シュゼットは感動していた。
 この調子なら、他の話題を出しても怒られないかもしれない。

 たとえば……。

(なぜいつも私を避けられるのですか?)
(どこを直せば私を見てくださいますか?)

 問いかけたい。

 けれど、問いかけたら隣にいるアンドレが魔法のように消えてしまう予感がした。
 ぐっとこらえているとミランダの挨拶が始まった。

「わたくしが主催の舞踏会によく起こしくださいました。本日は普段のしがらみを忘れて楽しみましょう。まずは主賓である、国王ご夫妻に踊っていただきます」

 盛大な拍手と衆目が、アンドレとシュゼットに送られた。
 アンドレが立ち上がったので、シュゼットもそれにならう。
 彼の腕に手を絡めたら、はぁとため息が降ってきた。

「ラウルには我慢しろって言われたけど、君じゃやる気が出ないんだよなぁ」
「……申し訳ありません」

 いきなりのダメ出しに、シュゼットの胸がもやもやした。
 嫌われているのは感じていたが、ダンスを踊る直前に言うことだろうか。

(この方は、まるで子どものようです)

 人を傷つけることに躊躇なく、衝動的に行動してしまう。
 国王の身分に甘んじて、自らを律することもない。
 権力にのせた我がままを振りかざす大きな子どもだ。

(こんな人とどうやって夫婦になれと言うのでしょう)

 シュゼットがもやもやを必死に咀嚼しようとしている間に、アンドレは会場を見回す。
 礼装の群れの中に、チュールを重ねたひときわ華やかなドレス姿の令嬢を見つけて、パッと表情を明るくした。

「カルロッタ!」
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