おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
 今、シュゼットはベールも被っていなければ傷跡を隠す化粧もしていない。
 ありのままの自分をアンドレに見てもらいたいから、彼の前でだけは取りつくろわないと決めた。

(早く会いにきてくださらないかしら)

 侍女たちが去った寝室で、シュゼットは置時計を見つめながらアンドレの訪れを待った。
 しかし、二時間が経っても国王の支度部屋につながる金の扉は開かなかった。

(何かあったのでしょうか?)

 金の扉に手をかけるが開かなかったので、シュゼットは小声で問いかけてみる。

「ドアノブさん、こんばんは。私はシュゼットと申します。開かないのはどうしてですか?」

『ごきげんよう、新しい王妃様。開かないのは、国王陛下が内鍵をかけておられるからですわ。こんなことは、第十三代国王フェリペス陛下がお倒れになった際、うっかりかんぬきを閉めてしまったとき以来ですことよ』

「そんなことがあったんですか!?」

 シュゼットは両手で口を覆った。

 もしかして、アンドレも急に倒れてかんぬきを閉めてしまったのでは。
 シュゼットを寝室に入れたら侍女や世話人が去ったように、彼も部屋に一人きりの可能性がある。

 今、アンドレを助けられるのはシュゼットしかいない。

(こうしてはいられません)

 シュゼットは、近くに置いていた短いベールを被り、寝室を駆けだした。
 廊下に出たが、人気がない。まるで人払いでもしたかのようだ。

 嫌な予感がした。

(陛下……!)
< 25 / 158 >

この作品をシェア

pagetop