おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
 心の底から面倒くさそうな声でアンドレは答えた。
 シュゼットのベールをまくり上げたときのように眉をひそめているが、手はカルロッタの腰をしっかりと抱きとめていた。

「式のときに初めて顔を見たけど、たいして美しくもないし、体つきも貧弱だし、物静かで暗い。最悪な女と結婚したと後悔したよ。お父様が死んでやっと婚約破棄できると思ったのに、ラウルが許してくれなくてさ。あいつは口うるさいから、仕方なく結婚するよりなかったんだけど」

 アンドレは、カルロッタの白い首筋に甘えるように口づけた。

「どうせ結婚するなら君とがよかったな。スタイルもいいし、ジュディチェルリ侯爵家の血も流れてるし。どうして妹の方なのかなあ。怪我させたのは大昔のことなのにさ」

 カルロッタに触れるチュッチュッというリップ音がおぞましくて血の気が引いた。
 頭が真っ白なのに、シュゼットの腹の底では黒い思考がぐるぐると渦をまく。

(仕方なく結婚した?)

 この結婚に、アンドレは乗り気ではなかったのか。

 面会をすっぽかすこともなく、結婚式の打ち合わせも順調だった。
 しかし、よく思い返せばいつも不機嫌そうだった気がする。

 政務が忙しくて寝ていないのだろうと、のん気に考えていた過去の自分は馬鹿だ。

 アンドレは、カルロッタの方が良かったのだ。
 怪我を負わせた償いにシュゼットを愛してくれる気なんて、さらさらなかったのだ。

 新郎の気持ちを置き去りにして決められた婚約と、彼の好みには合わない花嫁。

 こんな組み合わせでは、結婚まで駒を進めたとしても幸せになるはずがない。

(夢は、しょせん夢なのですね)

 絶望に襲われて、シュゼットはその場に倒れ込んでしまった。
 ガタッという物音に、むつみあっていた二人は振り返る。

「誰かいるの?」
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