おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される

20話 王妃教育のその裏で夫は

 シュゼットの教育は、王妃専用の書斎で行われる。

 深緑の壁が落ち着きのある部屋で、書き物机を挟むように置かれた本棚は難しそうな専門書でいっぱいだ。
 残念ながら、シュゼットが好きな恋愛小説は一冊もない。

 講義を行っていたおじいちゃん教授は、時計の針が十二を超えたところで話を止めた。

「今日の授業はここまで。次回はテストを行いますので復習しておいてくだされ」
「はい……」

 シュゼットは、分厚い教本を見下ろして肩を落とした。

 これはフィルマン王国の歴史書だ。
 王妃はこれを全て覚えなければならないのだが、国の歴史が長すぎて全て頭に入れるのは大変なのである。

(暗記は苦手です)

 来週のテストを思って憂うつになっていると、こっくりした茶色のライティングテーブルが話し出した。

『王妃様、テストのときこっそり答えを教えてやろうか? そのじいちゃんには聞こえねえんだからバレねえよ』
「ズルはだめですよ、テーブルさん。それではテストの意味がありません」

 たとえ紙の上でいい点数を取って一時的に教授に褒められても、覚えていなければいざというときの役に立たない。

 教授は耳が遠いのでシュゼットの声が聞こえなかったようだ。
 こちらに背を向けて使った資料を本棚に戻している。

(私の力は、まだ誰にも知られていないようです)

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