おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
突如として現れた憧れの人物に、シュゼットは目を輝かせた。
エリック・ダーエといえば、謎が多い作家である。
年齢や出身地も非公表で、ペンネームは男性名だけれど女性が書いているのではという噂も絶えない。
その人とあっけなく会えて、平静を保っていたピンが一気に抜けてしまった。
シュゼットは両手を組み合わせてエリックに迫った。
「ダーエ先生、お会いできて光栄です! 私、自分のつまらない人生に彩りを与えてくれるダーエ先生の小説が大好きなのです。宮廷を舞台にした華麗なる人間模様と、数々の試練を与えられながらも恋を諦めない主人公に憧れてきました。昨年発売された『拾われ妃の宮廷日記』では、平民として育った王太子妃が、時代遅れの宮廷のしきたりをひっくり返していく様が面白くて――」
「待った」
まくしたてるシュゼットを、エリックは困り顔で止めた。
「君が俺の熱心なファンだということは分かったよ。だが、図書館では私語をつつしむべきだ」
「す、すみません……」
シュゼットは真っ赤になった頬を両手で押さえた。
興奮のあまり、憧れの人に醜態をさらしてしまった。
涙目になるシュゼットに嘆息したエリックは、腕を引いて外に出た。
「え、えっと?」
「ここにいると邪魔になる」
エリックは、利用者用のベンチにシュゼットを座らせて、自分は隣に腰かける。
「君はいつもこの図書館を利用しているのか?」
「はい。自分用の本を買えないので、ガストン先生にお願いしてダーエ先生の恋愛小説を蔵書に入れてもらっているんです。この図書館の恋愛小説は全て読破しています」
「そうか。では、まだこれは読んでいないな」
エリックがバッグから取り出したのは、発売即売り切れだったというダーエの新刊。
その名も『騎士は王妃に恋してる』。
シュゼットがメグのために手に入れたいと思った一冊だった。
「こ、これは、売り切れの希少本ではないですか!」
「重版した分が来月には本屋に並ぶから、希少本でも何でもないんだが……。この図書館にはなかったので、先ほど寄付してきた。もう一冊あるから君にあげよう」
「いいのですか。本当に!?」
手に乗せられた新刊はずっしりと重かった。
エリックの瞳の色に似た緑色の装丁に、金でタイトルが刻印されている。
「ありがとうございます。なんて綺麗な本なのでしょう……」
本を両手で掲げて感激するシュゼットを、エリックは興味深そうにまじまじと見つめた。
「そこまで感激してもらえたら書いた甲斐がある。次の本はいつ世に出るか……。そもそも出せない可能性も出てきたな」
「何かあったんですか?」
エリック・ダーエといえば、謎が多い作家である。
年齢や出身地も非公表で、ペンネームは男性名だけれど女性が書いているのではという噂も絶えない。
その人とあっけなく会えて、平静を保っていたピンが一気に抜けてしまった。
シュゼットは両手を組み合わせてエリックに迫った。
「ダーエ先生、お会いできて光栄です! 私、自分のつまらない人生に彩りを与えてくれるダーエ先生の小説が大好きなのです。宮廷を舞台にした華麗なる人間模様と、数々の試練を与えられながらも恋を諦めない主人公に憧れてきました。昨年発売された『拾われ妃の宮廷日記』では、平民として育った王太子妃が、時代遅れの宮廷のしきたりをひっくり返していく様が面白くて――」
「待った」
まくしたてるシュゼットを、エリックは困り顔で止めた。
「君が俺の熱心なファンだということは分かったよ。だが、図書館では私語をつつしむべきだ」
「す、すみません……」
シュゼットは真っ赤になった頬を両手で押さえた。
興奮のあまり、憧れの人に醜態をさらしてしまった。
涙目になるシュゼットに嘆息したエリックは、腕を引いて外に出た。
「え、えっと?」
「ここにいると邪魔になる」
エリックは、利用者用のベンチにシュゼットを座らせて、自分は隣に腰かける。
「君はいつもこの図書館を利用しているのか?」
「はい。自分用の本を買えないので、ガストン先生にお願いしてダーエ先生の恋愛小説を蔵書に入れてもらっているんです。この図書館の恋愛小説は全て読破しています」
「そうか。では、まだこれは読んでいないな」
エリックがバッグから取り出したのは、発売即売り切れだったというダーエの新刊。
その名も『騎士は王妃に恋してる』。
シュゼットがメグのために手に入れたいと思った一冊だった。
「こ、これは、売り切れの希少本ではないですか!」
「重版した分が来月には本屋に並ぶから、希少本でも何でもないんだが……。この図書館にはなかったので、先ほど寄付してきた。もう一冊あるから君にあげよう」
「いいのですか。本当に!?」
手に乗せられた新刊はずっしりと重かった。
エリックの瞳の色に似た緑色の装丁に、金でタイトルが刻印されている。
「ありがとうございます。なんて綺麗な本なのでしょう……」
本を両手で掲げて感激するシュゼットを、エリックは興味深そうにまじまじと見つめた。
「そこまで感激してもらえたら書いた甲斐がある。次の本はいつ世に出るか……。そもそも出せない可能性も出てきたな」
「何かあったんですか?」