おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
30話 現実から逃げるために
ラウルは、自分で焼いてきたクッキーを味見するバルドに視線をやる。
「出版社は何か言ってきているか?」
甘さにうっとりしていたバルドは、頬に手を当ててとぼけた。
「そういえば、『次回作をお待ちしています。できるだけ早く書いてくださいね!』という連絡が来ていたような気がしましたね。私が知っているのは国王補佐のラウル様だけなので、適当にあしらっておきました」
「さすが俺の右腕だ」
ラウルは首にかけていたチェーンを手繰り寄せて、真鍮の小さな鍵を取り出した。
机の鍵穴に差し込んで回す。
カチャっという音を立てて開いた引き出しには、使い慣れたペンとインク瓶、書きかけの原稿が入っていた。
ペンには『エリック・ダーエ』というペンネームが刻まれている。
「できるだけ早くと言われても、資料が足りないうちは書けない」
ラウルはペンを持ち上げて器用に回した。
執筆道具に触れると眉間の皺が薄れた。
縮んでいた瞳孔もゆるみ、物静かな雰囲気をまとった本来のラウルへと戻る。
悪魔から天使に変わったような変貌に、バルドはぽうっと頬を染めている。
「ラウル様は自然体だとまるで別人です。これで髪を下ろしたら、誰も国王補佐だとは気づかないと思いますよ。宮殿にいるときは鬼のようですから」
「ここにいると鬼の形相になってしまうくらいストレスがすごいんだ」
「出版社は何か言ってきているか?」
甘さにうっとりしていたバルドは、頬に手を当ててとぼけた。
「そういえば、『次回作をお待ちしています。できるだけ早く書いてくださいね!』という連絡が来ていたような気がしましたね。私が知っているのは国王補佐のラウル様だけなので、適当にあしらっておきました」
「さすが俺の右腕だ」
ラウルは首にかけていたチェーンを手繰り寄せて、真鍮の小さな鍵を取り出した。
机の鍵穴に差し込んで回す。
カチャっという音を立てて開いた引き出しには、使い慣れたペンとインク瓶、書きかけの原稿が入っていた。
ペンには『エリック・ダーエ』というペンネームが刻まれている。
「できるだけ早くと言われても、資料が足りないうちは書けない」
ラウルはペンを持ち上げて器用に回した。
執筆道具に触れると眉間の皺が薄れた。
縮んでいた瞳孔もゆるみ、物静かな雰囲気をまとった本来のラウルへと戻る。
悪魔から天使に変わったような変貌に、バルドはぽうっと頬を染めている。
「ラウル様は自然体だとまるで別人です。これで髪を下ろしたら、誰も国王補佐だとは気づかないと思いますよ。宮殿にいるときは鬼のようですから」
「ここにいると鬼の形相になってしまうくらいストレスがすごいんだ」