おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
 無事にはしごを上りきったシュゼットは、揺れにキャーキャー言っていた荷物を置いていちばん近い窓に向かった。

 ジュディチェルリ家の屋敷は大きく、屋根裏も小さな公園くらいの規模だ。
 一人暮らしには広すぎるため、シュゼットははしごの近くの窓辺に放置されていた家具を並べて、一部屋分として区切っていた。

 おさがりのドレスを改造して作ったカーテンを開くと、外の明るさに目がくらんだ。
 目を半分閉じて歪んだ窓を押し開ければ、草原の香りがする春の風が吹き込む。

 風は古机にのせた本をめくり、壊れて開きっぱなしのワードローブの戸を揺らし、ベールをふわっと巻き上げてシュゼットの顔をあらわにした。

「あ……」

 シュゼットは十八歳には見えない幼い顔立ちをしている。
 年齢よりもずいぶん若く見られるのは、小ぶりな鼻と口に対して瞳が大きすぎるせいだ。

 母譲りのタンザナイトのように青色の目は姉妹とも同じだけれど、なぜだかカルロッタの方はギラギラと輝き、シュゼットの方はしっとりときらめく。

(いいえ、見られたくないのは瞳の色ではなく……)

 シュゼットは窓に背を向けてベールを整えた。

 屋根裏には誰も来ない。
 わかっていても、シュゼットの心臓はトクトクと騒いでいた。

『おかえり、シュゼット』
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