おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
下町の孤児院で出会ったシシィは、エリック・ダーエの本の愛読者だった。
愛らしい雰囲気にほだされて話をしてしまったけれど、本来ダーエは顔も素性もいっさい秘密なのだ。
国王補佐ラウルが作者だと露見するのを防ぐためである。
その道理からいえば、個人的に本を渡すような真似も控えるべきだった。
少女たちの口に戸は立てられない。
ダーエとつながりを持ったと自慢して歩かれたら、変な興味を持って出版社に突撃してくるファンもいるだろう。
(いいや、彼女は言いふらさない)
あの短い時間で信じられたからこそ、ラウルは彼女に新刊を渡し、宮廷録を探してくれるように頼んだのだ。
あとは、彼女が実家にあるという写しを見つけ出してくれるまで待つだけだ。
ラウルは原稿の横にあった便箋を取り出し、手に取ったペンを走らせた。
書き出しは、親愛なるシシィ様。
先日の出会いに感謝することに加え、新刊はどうだったか感想を聞かせてほしいとも書き添える。
要点は完結に、長ったらしくならないところがラウルらしい。
短い手紙を封筒に入れて、シシィに教えてもらった住所に届けるようバルドに頼む。
「これを孤児院そばの図書館へ届けてくれ。シシィに渡してほしいと言えば伝わる」
「女性に手紙なんて珍しいですね。ついに恋人ができたんですか?」
「この忙しいのに恋にうつつを抜かしていられない。さっさと行ってきてくれ」
「はいはい。お土産にケーキを買ってきますから、休憩に食べましょうね」
バルドは手を振って部屋を出て行った。
便せんやペンを引き出しに戻して再び鍵をかけたラウルは、チェーンを首にかけながら窓の外に目を向ける。
「国王補佐の仕事をしなくては」
自らに言い聞かせると、ラウルの心に潜んでいた冷徹な自分が顔を出す。
目つきは鋭く、瞳孔は小さくなり、誰もが怯える恐ろしい形相へと変わっていく。
「この姿で会ったら、さすがの君もエリック・ダーエだと気づかないだろうな……」
手紙を受け取るシシィの姿を想像して、ラウルは一抹の寂しさを覚えた
愛らしい雰囲気にほだされて話をしてしまったけれど、本来ダーエは顔も素性もいっさい秘密なのだ。
国王補佐ラウルが作者だと露見するのを防ぐためである。
その道理からいえば、個人的に本を渡すような真似も控えるべきだった。
少女たちの口に戸は立てられない。
ダーエとつながりを持ったと自慢して歩かれたら、変な興味を持って出版社に突撃してくるファンもいるだろう。
(いいや、彼女は言いふらさない)
あの短い時間で信じられたからこそ、ラウルは彼女に新刊を渡し、宮廷録を探してくれるように頼んだのだ。
あとは、彼女が実家にあるという写しを見つけ出してくれるまで待つだけだ。
ラウルは原稿の横にあった便箋を取り出し、手に取ったペンを走らせた。
書き出しは、親愛なるシシィ様。
先日の出会いに感謝することに加え、新刊はどうだったか感想を聞かせてほしいとも書き添える。
要点は完結に、長ったらしくならないところがラウルらしい。
短い手紙を封筒に入れて、シシィに教えてもらった住所に届けるようバルドに頼む。
「これを孤児院そばの図書館へ届けてくれ。シシィに渡してほしいと言えば伝わる」
「女性に手紙なんて珍しいですね。ついに恋人ができたんですか?」
「この忙しいのに恋にうつつを抜かしていられない。さっさと行ってきてくれ」
「はいはい。お土産にケーキを買ってきますから、休憩に食べましょうね」
バルドは手を振って部屋を出て行った。
便せんやペンを引き出しに戻して再び鍵をかけたラウルは、チェーンを首にかけながら窓の外に目を向ける。
「国王補佐の仕事をしなくては」
自らに言い聞かせると、ラウルの心に潜んでいた冷徹な自分が顔を出す。
目つきは鋭く、瞳孔は小さくなり、誰もが怯える恐ろしい形相へと変わっていく。
「この姿で会ったら、さすがの君もエリック・ダーエだと気づかないだろうな……」
手紙を受け取るシシィの姿を想像して、ラウルは一抹の寂しさを覚えた