【リレーヒューマンドラマ】佐伯達男のおへんろさん

【シューカツミスだった…】

私は、39歳の時に短期雇用で勤めていた会社を一身上の都合でやめた。

その後、大証(大阪証券取引所の略)2部上場の金融会社に再就職した。

…とは言うけど、ひらたく言えばサラ金である。

給与は、基本給と必要に応じて払われるおカネがある…

昇給があって、終身雇用の会社である…

…と思って再就職したが、大失敗した。

早々に与えられた仕事は『取り立て』であった。

分かりやすく言うと、返済を引き伸ばしている顧客から貸付金を回収して来いと言うことである。

それはもう、非常につらいお仕事であった。

1円も回収できずに会社に帰って来た時は地獄だ…

上の人は、私に対してどぎつい声でバトウした。

「なにィ!!1円も回収できなかった!?また油を売って、サテン(喫茶店)でのんびりしていたのか!?」
「すみませんでした。」

私は、上の人にどやされても必死にがんばった。

だけど、どんなにがんばって仕事もお給料は1円も上がらない…

こんなはずではなかった…

大失敗した…

やっぱり…

(もといた会社)の方がよかった…

(もといた会社)にはやさしい人たちがたくさんいた…

やさしい人たちがたくさんいる場所に帰りたい…

サイアクだ…

ドサイアクだ…

貸付金を顧客から回収するお仕事は、すごくつらい…

借りたカネは返すこと…それはしごく当然のルールである。

クレジットカードは便利だと言うけど、利用する上で絶対に守らなければならない規約《ルール》がある。

クレカでショッピングやレジャーを楽しむというのは、信販会社や金融会社のカネを費用に充てると言うことである…ことを忘れてはならない。

規約《ルール》を守らずに使いすぎ借りすぎをすると、大切な信用を喪《なく》す…と言うことだ。

金融会社《うちのかいしゃ》を利用した顧客《きゃく》は、規約《ルール》を無視して使いすぎ借りすぎをしているわるいやからばかりであった。

『もうしばらく待ってください…』と泣きつく顧客《きゃく》がたくさんいたので強く出れない…

それが原因で、貸付金を1円も回収できない…

特に悪いのは、上の人がいう『ブラックリスト』の3人の男性顧客《ごくあくにん》であった。

ひとり目は、32歳で妻子と別居中の会社員である。

うちの金融会社《かいしゃ》から1000万円を借り入れていた。

約8ヶ月分の遅延金がある…

そのうえに複数の金融会社《かいしゃ》から借り入れた大口もあったと思うから、なお悪いやつだ!!

『お給料が大きく減ったから…』と言うので、しばらくの間は利息分だけ払っていた。

だが、これ以上男を甘やかすわけには行かない…

そう思って、私は男の家にやって来た。

私が男にカネを返すようにと男にサイソクしたが、男はニコニコした表情で両手を合わせてこう言うた。

「すまん…打ったり(ギャンブル)のんだり(酒)買ったり(ここでは衝動買い)が続いて…もうしばらく待ってくれるかな…」

それを聞いた私は、怒った声で言うた。

「あんたね!!カネを返さないのであれば法的措置に踏み切りますよ!!」

男は『分かった分かった…そのうち倍にして返すから。』とめんどくさい声で言うたあとドアをバタンと閉めた。

ふたりめは、アマチュアサッカーチームの外国人選手であった。

私が『おカネを返してください…』と言うと外国人選手は泣きそうな声で言い返した。

「たまっているお弁当代が払えない…苦しい…ごめんなさい…」

もっとも悪いやつは、23歳の大学生の男だった。

部屋の中には、国民的人気アイドルグループAKB48のCDが部屋中にところせましと並んでいた。

毎年開催されていた『総選挙』の時に、投票用紙を目当てに10万枚以上購入するなど…熱狂的なファンだった。

そのカネは、うちの金融会社《かいしゃ》で借り入れた。

CD購入以外にもグッズ購入や推しごとの費用もうちの金融会社《かいしゃ》で借り入れた。

それだけではなく、他の学生さんからもカネを借りるなどしていたからなお悪い!!

私は、怒った声で大学生に言うた。

「お願いですから、あなたがうちの金融会社《かいしゃ》から借り入れたカネを耳そろえて返してください!!」

男は、つらそうな顔で『もうしばらく待ってください〜』と私に言うた。

私は、ものすごく怒った声で男に言うた。

「あんたが言うたその言葉はもう聞きあきたのだよ…あんたが持っているCDとグッズ類を購入する費用も推しごとをする費用もみんなうちの金融会社《かいしゃ》から借り入れたと言うことをきれいに忘れているようだな!!払えないと言うのであれば、CDとグッズ全部を差し押さえますよ!!」

すると男は、メソメソ泣きながら言うた。

「イヤだ!!AKBはぼくの命だ!!」

結局、貸付金を1円も回収することができなかった。

それから1ヶ月後だった。

アマチュアサッカーチームの外国人選手が母国に逃げ帰った。

やられた…

借金をふみたおされた…

私は、上の人に対して窮状《きゅうじょう》を伝えた。

上の人は『よしわかった。』と言うて重い腰を上げた。

上の人は『こうなったら奥の手だ!!』と言うたあと、私に対して『同行しろ!!』と言うた。

奥の手とは、債務者の家族や親族…または保証人に対して返済を催促することである。

ただ、債務者の家族や保証人にも経済的に困窮《こんきゅう》している事情がある。

私は、これでいいのかと苦しんだ。
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