【リレーヒューマンドラマ】佐伯達男のおへんろさん

【本山寺から東へ…】

私は、本山寺《もとやまじ》で参拝を終えた後、国道11号線を東に向かって歩いた。

私のおへんろの旅は、子供たちを不幸にさせたことに対するつぐないの旅である。

長男は、岡山県浅口市で婚約者がストーカー殺人未遂事件の容疑者の男の家族を惨殺したあと2〜3件の殺人事件を起こして逃走した。

家に残った妻と長女が心配だ…

高野山《ほんざん》の金剛峰寺《おてらさん》で参拝を終えたら、すぐに東京にいる家族のもとへ帰ろう…

そして、もう一度やり直そう…

…と私は決心した。

次の日の昼前であった。

私は、七十五番札所・善通寺にいた。

参拝を終えた後、納径帳《おしゅいんちょう》に朱印《おしゅいん》をつけた。

その後、寺の境内にあるベンチに腰かけて一休みした。

この時であった。

もう一人のおへんろさんが私に声をかけた。

「となりに座ってもよろしいですか?」
「ああ…どうぞどうぞ。」

私の横に、私と同世代の年齢で体格がどっしりとしたおへんろさんの男性が座った。

名前は、しげみちさん・54歳…

前職は、プロ野球の審判であった。

ベンチに座っているふたりは、身の上話をした。

それから一時間後であった。

しげみちさんは、ベンチから立ち上がった。

しげみちさんは、出発前に私に優しく言うた。

「それでは出発いたします…高野山《ほんざん》でまたお会いしましょう。」

しげみちさんは、ゆっくりとした足取りで出発した。

私は、しげみちさんの背中をゆっくりと見送った。
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