16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった

雄太郎とマヤ

今日はエコー検査の日だった。妊娠五カ月に入り、お腹のふくらみが目立ち始め、通販で購入したマタニティウェアをいよいよおろした。見た目は普通なのにお腹周りに全く締め付けが無く、こんなに着心地がよいなら、一生これでいいな、なんて考えながら、帰りの電車に揺られていた。

子供の性別はとりあえず今日は聞かなかった。医師は、もうわかるよ、とにこやかにモニターを見ていたが、トオルが「生まれるまでのお楽しみにしよ」と言っていたのでマヤも同意した。

自宅アパートに着いたと同時にスマホの着信が鳴り、見ると登録していない番号が表示されていた。

「もしもしマヤ?私、ミサだよ。覚えてる?」

マヤの中学時代の、数少ない友人の一人、ミサだった。

「突然、ごめんね」

実家からこの電話番号を聞いたというミサは、高校が別々になってから疎遠になっていた。

「上村って覚えてる?野球部だった」

「あー、何となく。坊主頭しか出てこないけど」

「はは。私は高校も一緒だったから、結構何かと連絡とってたんだけど、昨日久しぶりに電話があってさ。今は東京らしいんだけど、来週大阪に帰ってくるから、久しぶりに会おうって。そんで、なぜか、マヤも呼んでだって」

「はー?なんで?私話したことないよ」

上村雄太郎。よく覚えている。
今でいう、”陰キャ”だったマヤは、休み時間は大抵ミサと話すか、一人で本を読んで過ごしていた。
一方、今なら”陽キャ”もしくは”パリピ”とでも呼ばれるのであろう、わりと騒がしい生徒だった上村に、ある日、何の脈絡もなく、面と向かって「ブスだな」と言われたことがあった。

(嫌なこと思い出した)

「アイツもそう言ってた。でも、なんか謝りたいって言ってたよ。懐かしいし行こうよ。アイツ結構稼いでるらしく、奢ってくれるんだって」

もともと自分の外見が取り立てて良いものではないことは自覚していたが、あの唐突の不躾な一言が、未成熟なマヤの心の根っこに刺さり、その傷はそれ以降、ことあるごとにマヤの劣等感を膨らませることとなった。
その元凶である上村とは会いたいはずがない。しかし、久しぶりに会いたいとせがむミサに根負けして、つい承諾してしまった。
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