16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった
相談
「なんで、…知ってるの?」
マヤは立ち止まった。雄太郎はうすら笑いを浮かべながら、マヤのリアクションを面白がっているように見える。
すでにマヤのアパートが見えていた。雄太郎も足を止め、マヤに向き直った。
「今夜は遅いから、良かったらまた明日話さない?俺、火曜日まで有給取ってるから、実家にいるんで」
三十年も会っていない、そもそも、友人でもなかった上村が、なぜ自分の結婚を知っているのだろうか。ミサにも話していないのに。
ひどく気味が悪いので、このままスルーするわけにはいかなかった。
翌日の土曜日、マヤはカフェで待ち合わせを申し出た。
カフェというよりは、マヤが子供の頃からある昔ながらの古びた喫茶店だ。今どきのコーヒーチェーン店とは違い、店内は適度な空間が広がり、客も地元の常連客がまばらにいるだけ。
奥の手洗いに一番近い席なら、店員や他の客からほどよい距離を保つことができる。
ホットコーヒーを二つ頼み、ウェイターが去ると、上村は上機嫌な笑顔をマヤに向けて言った。
「いや、昨日も言ったけど、マヤちゃん、ホントにきれいになったよね。ミサの前であまりマヤちゃんばかりを褒めるのはマズイかなと思って、控えてたんだけどさ」
夕べは“仲宗根さん”だったのに、今日はもう”マヤちゃん”と馴れ馴れしく呼ぶ上村に警戒心を抱く。こちらに向ける視線も何だかねっとりと纏わりつく感じなのは気のせいだろうか。
「やっぱり、若いイケメンと付き合ってるから?」
マヤの心臓がまたドクっと脈を打った。
「なんで」と言いかけるマヤを、上村は手のひらを向けて制した。
「わかってる。昨日の続きを話すよ。僕も仲宗根さんに相談したかったんだ」
「相談…?」
「うん。仲宗根さんの婚約者はバスケ選手の深瀬亨さんだよね。すごいよね、今の時の人だもん」
「…」
マヤは動揺を隠しながら、上村の次の言葉を待った。
「実はね、相談って言うのは」
マヤの唾を呑む音が上村に聞こえたかもしれない。
あまり良い予感はしなかった。が、次に彼の口から出た言葉は、マヤの予想をはるかに超えるものだった。
マヤは立ち止まった。雄太郎はうすら笑いを浮かべながら、マヤのリアクションを面白がっているように見える。
すでにマヤのアパートが見えていた。雄太郎も足を止め、マヤに向き直った。
「今夜は遅いから、良かったらまた明日話さない?俺、火曜日まで有給取ってるから、実家にいるんで」
三十年も会っていない、そもそも、友人でもなかった上村が、なぜ自分の結婚を知っているのだろうか。ミサにも話していないのに。
ひどく気味が悪いので、このままスルーするわけにはいかなかった。
翌日の土曜日、マヤはカフェで待ち合わせを申し出た。
カフェというよりは、マヤが子供の頃からある昔ながらの古びた喫茶店だ。今どきのコーヒーチェーン店とは違い、店内は適度な空間が広がり、客も地元の常連客がまばらにいるだけ。
奥の手洗いに一番近い席なら、店員や他の客からほどよい距離を保つことができる。
ホットコーヒーを二つ頼み、ウェイターが去ると、上村は上機嫌な笑顔をマヤに向けて言った。
「いや、昨日も言ったけど、マヤちゃん、ホントにきれいになったよね。ミサの前であまりマヤちゃんばかりを褒めるのはマズイかなと思って、控えてたんだけどさ」
夕べは“仲宗根さん”だったのに、今日はもう”マヤちゃん”と馴れ馴れしく呼ぶ上村に警戒心を抱く。こちらに向ける視線も何だかねっとりと纏わりつく感じなのは気のせいだろうか。
「やっぱり、若いイケメンと付き合ってるから?」
マヤの心臓がまたドクっと脈を打った。
「なんで」と言いかけるマヤを、上村は手のひらを向けて制した。
「わかってる。昨日の続きを話すよ。僕も仲宗根さんに相談したかったんだ」
「相談…?」
「うん。仲宗根さんの婚約者はバスケ選手の深瀬亨さんだよね。すごいよね、今の時の人だもん」
「…」
マヤは動揺を隠しながら、上村の次の言葉を待った。
「実はね、相談って言うのは」
マヤの唾を呑む音が上村に聞こえたかもしれない。
あまり良い予感はしなかった。が、次に彼の口から出た言葉は、マヤの予想をはるかに超えるものだった。