16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった
「・・・ということなんで。奥様によく言っておいて。トオルだけじゃなく、チームにも迷惑がかかりかねないし」

上村が東京に帰る当日、また前回と同じ喫茶店で面会した。
マヤは勝ち誇ったように、トオルから聞いた実情を上村に告げた。

「そう…」

上村は納得した様子ではなかったが、もうこれで解決したのだ。
バッグを手に取り立ち上がろうとした時だった。

「待って。僕も帰って妻に聞いてみるよ。深瀬さんとそういう関係じゃなかったのなら、それは本当に良かったと思う。でも・・・」

上村は目の前に置かれたコーヒーをまだひと口もつけていないまま、腕組をして目を伏せる。

「でも?」

「俺が妻に裏切られてるっていうのは変わらないよね」

「え…」

上村はゆっくり顔を上げると、虚ろな目でマヤを見た。

「まあ、俺も仕事ばかりでかまってやれていないことも関係あるのかもね。出張も多いし。その・・・」

上村はまた目を伏せて口ごもる。
マヤはもう完全に興味を失っていたので、早く帰りたい気持ちしかない。

「もう長いこと、レスだし。妻も欲求不満になっていたのかも。彼女のパソコンとスマホのホーム画面は深瀬選手のアップ写真なんだけど、それにキスをしているのを見たこともある」

背中にぞわりと鳥肌が立った。自分と同年代であろう上村の妻が、自分の恋人の写真に口づけをしている姿を想像して、強い嫌悪感が湧き上がる。

「怖いよ、それ。とにかく、もう二度とトオルに迷惑かけないよう約束させて」

そう言って立ち上がり、座っている上村の横を通りすぎようとした時だった。
上村の腕が伸びてきて、マヤの手を掴んだのだ。今度は違う意味で、全身が粟立った。

「マヤちゃん、僕、女性の気持ちってよくわからないんだ。今後、妻とうまくやっていくために、そしてマヤちゃんたちにももう絶対迷惑をかけないよう、俺も本気で取り組もうと思う。だから、相談に乗ってくれない?同級生のよしみで、頼むよ!」

上村はそう言うとマヤの手を掴んでいた手を離し、両ひざに手を置いて、お願いします、と頭を下げた。

同級生ではあるが、ただただ暴言を吐かれたという接点しかない男に、親切にしてやるほど自分はお人よしではない。
しかし、上村の妻はちょっと危険なにおいがする。彼が言うように、これ以上トオルに迷惑をかけられては困る。
その思いが勝ち、結局また来週会うことを承諾した。
< 18 / 29 >

この作品をシェア

pagetop