16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった

接触

マヤとの険悪な電話から一週間後の月曜日の朝、トオルがロッカー室で着替えていると、広報スタッフの北島がトオルの元にやってきた。

「深瀬さん、ちょっとこれ見て下さい」

トオルより二つ年下の北島は、少し困ったような表情でスマホを差し出してきた。
覗いてみると、事務局あての受信メールだった。
内容は、トオルが宛先になっていて、妻が迷惑をかけて申し訳ないといった詫びの言葉と、トオルから電話をしてほしい、と、携帯番号が添えられていた。
送信者名は〈上村雄太郎〉と記されていた。

トオルはすぐに目の前のロッカーの中からスマホを取り出し、その電話番号を打ち込むと、北島に礼を言って、スマホを持ってロッカールームを出た。

『すみません、お忙しいのに早速ご連絡くださって』

トオルはフロントまで足早に歩きながら、初めて聞く男の声に耳を傾けていた。

「マヤちゃんから聞きました。妻が一方的に深瀬さんに熱を上げていたんですってね。夫として不甲斐ないです。心よりお詫びいたします」

「マヤちゃん」と馴れ馴れしく自分の婚約者のことを呼ぶ、顔も知らない男に不快感を抱く。
確か、同級生ではあるが、ほとんど話したことがないとマヤは言っていた。
再会して、意気投合したとでもいうのか。
黙っていると、上村は淡々と礼儀を崩さず続けた。

「本当はこちらから伺ってお詫びしないといけないのですが、お忙しいところかえってご迷惑をおかけしてはいけないので。こんな風にしかご連絡できなくて申し訳ございません。後日、お詫びの品を送らせていただきます」

「そんなものはいらないです」

やっと口を開いたトオルは冷たく響く声で言った。

「妻にはもう、試合にも、もちろん、ご自宅にも行かないよう強く言っておきました。もしまた同じことがありましたら、すぐこの電話にご連絡ください」

「わかりました。では・・・」

「あ、あの」

耳をスマホから離そうとしたが、呼び止められた。

「僕もわかってましたよ、もちろん。うちの妻を深瀬さんみたいなイケメンのスター選手が相手にするなんて思ってないです。でも、これがきっかけで、マヤちゃんと再会できたのは、不幸中の幸い?ってやつですね」

はは、と笑いながら上村は陽気な声で言う。

「どういう…意味ですか?」

乾いた声が出ていた。
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