16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった
「あ、いや、深い意味はないですよ。ただ、中学時代に彼女にすごく失礼なことを言ってしまい、ずっと嫌われていたみたいだったので。三十年越しにお詫びできる機会を得た結果、今はとっても親しくなれたので。縁を作ってくれた妻に感謝、なんて不謹慎ですが」

不謹慎どころじゃないだろ。
「とっても」というところをさりげなく強調しているのが、益々腹立たしい。

「マヤとはもう会わないでください」

「え?どうしてです?同窓生ですから、積もる話もたくさんありますし。今度母校に一緒に行ってみようって話してるんですよ」

トオルの忍耐のキャパは、人よりは大きな容量を持つはずだったが、男から発せられる言葉のひとつひとつが、それを今、軽々と超えようとしている。

「彼女、妊娠してるんです。高齢出産ですし、あまり外出しないよう病院からも言われてます。だから、もう誘わないでください」

どうにか怒りを抑えて平静を保ったが、次の男の言葉で限界に達した。

「そう、高齢出産は気を付けないと、ね。僕からは誘わないですよ。でも、マヤちゃんから誘われたら、僕、ことわれないですよ~、やっぱり」

だらしなく鼻の下を伸ばした中年男の顔が容易に想像できた。
トオルは無言のまま電話を切った。
スマホを後ろポケットに突っ込み、怒りの感情が体中に広がるのを必死で抑えながら、ロッカールームに戻った。
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