16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった
『せっかくマヤちゃんに似合いそうな香水を買ったんだよ。娘さんにクッキーも』
「ありがとう。でも、やっぱり食事はちょっと、無理かな」
『わかった。じゃあ、マヤちゃんの家まで持っていくよ。明日夜ならいる?』
それは申し訳ないから、とその後も断り続けたが、相手も必死に食い下がる。
結局、マヤの帰宅時間に合わせて上村が持参する、ということで合意した。
翌日、マヤは定時で退社し、真っすぐ帰宅した。
ユカはトオルに刺激されて、高校から男子バスケ部のマネージャーをしている。通学に一時間かかり、帰宅はいつも七時を過ぎるので、夕食の準備は慌てなくてよい。
テレビでニュースをぼんやり眺めながらお茶を飲んでいると、ちょうど六時にインターホンが鳴った。
電話をくれたら近くまで行くと伝えていたので、直接来られたのには焦った。
扉を開けると、コートにジーンズ姿の上村が、小さな紙袋を手に笑顔で立っていた。
「電話をくれたら近くまで行ったのに」
マヤは開けた玄関扉を押さえながら言った。
上村はニコニコと笑顔でマヤを見ているが、紙袋を差し出そうとしない。
数秒だが、妙に長く感じる沈黙が流れた。
これは家にあげろということだろうか。しかし、それはあり得ないだろう。
言葉を探していると、上村の方が口を開いた。
「この前の相談なんだけど、ちょっとだけいい?」
また嫁の愚痴だろうか。勘弁してくれという気持ちを隠しながらマヤは言った。
「あ、ごめん、今から夕飯の支度があるんだ」
笑顔を崩さないよう、やんわりと断った。すると上村は、何か意を決したような、真剣な顔つきになって言った。
「俺、離婚するかもしれない」
「え?」
マヤは呆気にとられた。マヤを見つめる上村からは、これまでのような余裕ぶった表情は消えていた。
結局夫婦仲は戻らなかったということだろうか。
だとしても、もうマヤには関係がないし、出来れば関わりたくない。どうリアクションしたらいいか迷っていると、上村がフッと息を吐いて言った。
「深瀬選手のことがここまで重大な結果を招くことになるとは、思ってなかったよ」
まるでトオルのせいだと言わんばかりに不機嫌な顔を向ける上村に、マヤは不快感が湧きあがり、もうこれ以上この男と話していたくなかった。
紙袋は彼の手から垂れ下がったままだ。それを持ったまま帰ってほしい。
そう言いかけた瞬間、男は視界から消えた。
「助けて、マヤちゃん」
紙袋が地面に落ちる音と同時に、耳元でくぐもった声がした。
上村に抱きすくめられていたのだ。全身に緊張が走る。
「ちょ、離して!」
上村の肩を両手で必死に押し返すが、びくともしない。トオルほどではないが、やはり男だけあって力が強かった。
自分の背中に回った腕の力がさらに強くなり、二人の体がより密着する。
とっさにお腹を庇おうと、さらに力を込めて肩を押したがやはり無駄だった。
「ありがとう。でも、やっぱり食事はちょっと、無理かな」
『わかった。じゃあ、マヤちゃんの家まで持っていくよ。明日夜ならいる?』
それは申し訳ないから、とその後も断り続けたが、相手も必死に食い下がる。
結局、マヤの帰宅時間に合わせて上村が持参する、ということで合意した。
翌日、マヤは定時で退社し、真っすぐ帰宅した。
ユカはトオルに刺激されて、高校から男子バスケ部のマネージャーをしている。通学に一時間かかり、帰宅はいつも七時を過ぎるので、夕食の準備は慌てなくてよい。
テレビでニュースをぼんやり眺めながらお茶を飲んでいると、ちょうど六時にインターホンが鳴った。
電話をくれたら近くまで行くと伝えていたので、直接来られたのには焦った。
扉を開けると、コートにジーンズ姿の上村が、小さな紙袋を手に笑顔で立っていた。
「電話をくれたら近くまで行ったのに」
マヤは開けた玄関扉を押さえながら言った。
上村はニコニコと笑顔でマヤを見ているが、紙袋を差し出そうとしない。
数秒だが、妙に長く感じる沈黙が流れた。
これは家にあげろということだろうか。しかし、それはあり得ないだろう。
言葉を探していると、上村の方が口を開いた。
「この前の相談なんだけど、ちょっとだけいい?」
また嫁の愚痴だろうか。勘弁してくれという気持ちを隠しながらマヤは言った。
「あ、ごめん、今から夕飯の支度があるんだ」
笑顔を崩さないよう、やんわりと断った。すると上村は、何か意を決したような、真剣な顔つきになって言った。
「俺、離婚するかもしれない」
「え?」
マヤは呆気にとられた。マヤを見つめる上村からは、これまでのような余裕ぶった表情は消えていた。
結局夫婦仲は戻らなかったということだろうか。
だとしても、もうマヤには関係がないし、出来れば関わりたくない。どうリアクションしたらいいか迷っていると、上村がフッと息を吐いて言った。
「深瀬選手のことがここまで重大な結果を招くことになるとは、思ってなかったよ」
まるでトオルのせいだと言わんばかりに不機嫌な顔を向ける上村に、マヤは不快感が湧きあがり、もうこれ以上この男と話していたくなかった。
紙袋は彼の手から垂れ下がったままだ。それを持ったまま帰ってほしい。
そう言いかけた瞬間、男は視界から消えた。
「助けて、マヤちゃん」
紙袋が地面に落ちる音と同時に、耳元でくぐもった声がした。
上村に抱きすくめられていたのだ。全身に緊張が走る。
「ちょ、離して!」
上村の肩を両手で必死に押し返すが、びくともしない。トオルほどではないが、やはり男だけあって力が強かった。
自分の背中に回った腕の力がさらに強くなり、二人の体がより密着する。
とっさにお腹を庇おうと、さらに力を込めて肩を押したがやはり無駄だった。