16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった

妊娠

その一か月前、トオルの所属チーム〔東京スカイズ〕の開幕戦は、ホームコートで行われた。
マヤは娘のユカと、テレビの前で観戦した。
バスケは日本ではまだ注目度が低く、民放では放送されない。マヤは事前にCSを契約し、視聴環境を整えた。

トオルは第4Qからの出場で、たった五分のうちに三連続ゴールを決めチームを勝利に導き、鮮烈なデビューを果たした。

「やった!トオルくん、おめでとう~~」

ジュースのコップを片手に足をバタバタさせながら、リビングのテレビの前でユカが大はしゃぎする。

ユカはこれまでに三回トオルと対面しており、トオルの実業団時代の試合も一度観戦した。

若いトオルとは初対面ですぐに意気投合し、今ではすっかり懐いている。二人の交際も喜んでくれた。

マヤも缶ビールを飲みながら、トオルのデビュー戦での勝利を心から祝福した。
自分はこの人の妻になるのだ。プロスポーツ選手の妻。果たして自分に務まるのだろうか。

未知の世界への不安に、しばし心が支配されていたが、トオルのインタビューが始まったので、居住まいを正して画面に注目した。

テレビ越しに観る若い恋人は、いつもとは少し違う印象を受けるが、やはりテレビ映えする超イケメンだ。

(やっぱり、ファンは増えるだろうな…)

額の爽やかな汗を手のひらで拭いながら、差し出されたマイクに向かって笑顔で話すトオルをぼんやりと見つめる。

トオルが人目に晒されることは、マヤにとっては決して喜ばしいことではなかった。
一流アスリートとしての活躍だけでなくモデル顔負けのそのルックスは、本人の意思とは関係なく女性からの熱い視線を惹きつけてしまうだろう。

三年前に離婚した元夫のヒロキも端正な顔立ちでモテる方だったが、全国に顔が知られるトオルの場合、与える影響力は比べ物にならない。

ヒロキの浮気でパニック障害を発症する事態にまで陥った自分が、これに耐えられるのだろうか。
考えていると、ふと胸のあたりがつかえる感じがした。

やきもち?…いや、これは…?!

胃のあたりからこみ上げるムカつき。

思わず口を右手で押さえた。

え?

出る!と思った瞬間立ち上がり、走ってトイレに向かい、何とか間に合った。

(もしや…)

急いで自室に行き、床に置きっぱなしの通勤用バッグから手帳を取り出した。

月カレンダーに小さく記している生理日は、そう言えば最近開いていなかった。
四十を過ぎたあたりから不順になっていたのであまり気にかけていなかったのだ。

トオルにプロポーズをされた時、ハッキリ伝えた。
「子供はあきらめてね」
そう言うと、あまりにも意外だという顔をされ、軽いショックを受けた。

彼はまだ二十代で、子供を望むのは至って普通のことだ。
しかし、四十を超えた自分と結婚するなら、それは諦めてもらわなければならない。
そう伝えたのだが、彼は腑に落ちない様子で、そのままうやむやにされてしまったのだ。
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